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運転手の自殺が明らかにするギグエコノミーの暗部


ニューヨークのタクシー運転手、ダグ・シフター氏は、ライドブッキング企業がいかにタクシー運転手の生活を破壊したのかを明らかにするために自ら死を選んだ。

2018年2月5日、ニューヨークで一人のタクシードライバーが自ら死を選んだ。

ウーバーなどライドブッキングの広がりがタクシー運転手の生活を破壊している現実を伝えるために死を選んだという。

以下、2018年2月6日のニューヨークタイムズ、"A Driver’s Suicide Reveals the Dark Side of the Gig Economy"。 https://www.nytimes.com/2018/02/06/nyregion/livery-driver-taxi-uber.html

昨年の春、ニューヨーク市タクシー・リムジン委員会の前で、一人の女性がタクシー産業の苦境を訴えた。女性の名は、バイラビ・デサイ。デサイ氏は、運転免許証を持たない女性でありながら、男ばかりの世界最大のタクシー市場で彼らのリーダーを務めている。

デサイ氏は、ニューヨーク・タクシーワーカーズ・アライアンスの代表として、21年間にわたり労働運動に携わってきた。しかし、いまだかつてこれほどの絶望を目の当たりにしたことはないと言う。破産、自宅の差押え、退去通告、あらゆる困難がドライバー達を苦しめ、彼女の下へは、どうやってホームレス生活や深刻なうつ病を乗り切ればいいのかという相談が絶えることはない。

「私の心の半分は押し潰されている。そして、残りの半分は燃えている。」と彼女は言う。

ウーバーやその他のライドブッキング企業が、ニューヨーク、ロンドン、その他の都市のタクシードライバー達に与えた経済的苦境は悲惨なものだ。何十年もの間、ニューヨークのタクシー台数は約12,000台から13,000台を超えることはなかった。しかし今や、鉄道やバスを避ける移動手段は無数に存在し、例えばライドブッキングの「ヴィア」のように5ドル足らずでマンハッタンを動き回れるサービスも現れている。2013年には47,000台だったニューヨーク市内のタクシー・ハイヤー車両は、今では10万台以上となり、その約3分の2はウーバーのライドブッキング車両だ。

ウーバーは、この「破壊」を好ましいものとして乗客に宣伝したが、その陰では多くのタクシー運転手たちが犠牲となった。2013年から2016年の間に、最も稼げる日中に稼働するニューヨークのタクシー運転手の売上は88,000ドルから69,000ドルに低下した。ニューヨーク市のタクシー営業権であるメダリオンの価値は下落し、かつては賢明な投資とされたメダリオンは、今やタクシー運転手たちの深刻な負債の原因となっている。デサイ氏は、毎日のように大人の男たちが泣き崩れるのを目の当たりにし、いつか彼らの中から死を選ぶものすら出てしまうのではないかと恐れていた。

月曜日の朝、60代前半のタクシー運転手、ダグ・シフター氏は、ロウアー・マンハッタンにあるニューヨーク市役所前で、ショットガンで自分の頭を撃ち抜き、自殺した。シフター氏は、その数時間前、自身のフェイスブックに長文の投稿を載せていた。そこには、彼を苛酷な状況に追い詰めた構造的搾取が描かれていた。シフター氏は、彼がタクシー運転手を始めた1980年代は週40時間働けば十分だったが、今や週100時間働かなければ生活できないと書いた。彼は、ブルームバーグ前市長、べラジオ市長、クオモ知事らの政治家が何もせずに投資家に追従し、膨大な数の車両が市場に溢れることをただ黙認していたことを批判した。また、彼は罰金と課税の面倒についてタクシー委員会を非難した。

シフター氏は、健康保険を失い、クレジットカードの借入れが重なり、もうこれ以上「はした金」のために働いても無意味だと感じていた。シフター氏は、彼が犠牲となることで、仲間のタクシー運転手たちが直面している苦境、家族を養うことさえできないという苦境に社会の関心を集めることができればいい、という希望の中で死を選んだのだ。彼は、「ハイヤー・ニュース」という雑誌で、これらの苦境を全て予測するコラムを書いていたが、誰一人として彼に耳を貸す者はいなかった。

シフター氏の遺書ともいえるフェイスブックの投稿からは、彼が人生をかけた仕事が、プロの職業とは扱われなくなっていったことへの怒りが伝わってくる。シフター氏は、彼の職業人生において、5つのハリケーン、50回の吹雪の中を走り、8046万7200キロを走り抜いた。彼はスーツを着て、有名人の運転手も務めた。彼は、収入を補うための副業や、小遣い稼ぎのためのアルバイトとして運転手をしていたのではない。彼は、ギグエコノミーの参加者ではない。彼は、その犠牲者だった。

少なくとも一世紀の間、富の散逸によって引き起こされた光景としての自殺は、典型的には富裕層のものだった。1929年のウォール街の大恐慌では、4人がニューヨークのビルから身を投げた(民間伝承ではもっと多くの同様の死があったと言われている)。数十年後、バーニー・マドフの息子マークは、彼のソーホーのアパートで犬用のリードで首を吊った。 インサイダー取引の告発を受けたヘッジファンドマネージャーのサンジェイ・ヴァルヴァニは、2016年にブルックリンの自宅寝室で喉を掻き切り、タブロイド紙と経済紙に衝撃を与えた。貧困は、苦労なく人を死に追いやることができるのだ。

自動運転の到来というさらに暗い未来を見つめるタクシー運転手にとって、ワシントンが週給1.5ドルの上昇が富の分配に資すると考えている時に、どこに特効薬があるのか見極めることは容易なことではない。

デサイ氏によれば、ニューヨーク市のタクシー運転手が直面している状況は非常に深刻で、大晦日でさえ満足に客が拾えないと多くの運転手が訴えているという。その頃彼女は、ブロンクスにあるドミニカ系タクシー運転手向けコミュニティラジオを運営する女性から電話を受けた。ラジオの司会者の知人である2人の運転手は自殺し、番組に出演中の他の運転手は、彼らの周りで目にする孤独と恐怖について話していた。

死の数日前、シフター氏は、政治に対する不信と彼の信仰について書いていた。「人生は一度きりなんていうクリシェは信じるな」。彼はフェイスブックに書いた。「本気になって探すなら、手掛かりはみんなあなたの周りにあるんだ。」

By GINIA BELLAFANTE

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