グローバル企業の租税回避問題とその対策

内田聖子 交通の安全と労働を考える市民会議 代表世話人(PARC共同代表)

 ライドシェアリングを含むシェアリングアエコノミーやデジタルトランスフォーメーションを政府産業界がさかんに推進しているわけですが、「交通の安全と労働を考える市民会議」では目下、これらがもたらす負の側面、特に働く人あるいはサービスの受益者にどういう影響があるかを提起しています。特に、インターネット上のプラットフォームを通して個人事業主、自営業者として仕事を請け負うような働き方、ウーバーイーツなどに代表されるギグワーカーの課題についてこの間、フォーカスしています。

 今日(2021.11.18)は、京都大学の諸富徹先生に、グローバル企業の租税回避についてお話しいただきます。みなさまご存じのとおりだと思いますが、数々の租税回避をしている企業があり、ウーバーのようなプラットフォーム企業も含まれています。全体像をお話いただき、ウーバー社の租税回避の仕組みについても触れていただきます。

 今日のポイントは、グローバル企業による租税回避問題とギグワーク、プラットフォーム企業の労働課題、この性質の違う2つを同時に考えることです。それぞれが別個の構造や政策課題を抱えていますが、共通してグローバル企業に問われているのは公正性(fairness、フェアネス)と透明性(トランスパレンシー/トランスペアレンシー、transparency)であると思います。これらを大企業に求める運動は、国際的にも潮流が非常に高まってきていて、私たちも大変参考になる事例があります。また、各国あるいは国際的にこれらの企業に対する規制やルールの制定をそれぞれ進めていますが、日本はどうするのかという課題もあります。この2つの課題を一緒に考えることでグローバル企業の行動をより包括的な視点から分析し、公正性と透明性を企業に求めていく市民社会の運動をより強化したいと思います。


司会 木下徹郎弁護士 

 内田さんありがとうございます。一見すると関係なさそうなテーマですが、これが実はつながっていて、よくまとめてくださったように、公正性、透明性でよくつながってくるということをみていただいて一緒に考えていければと思います。グローバル課税に精通している諸富徹京都大学大学院教授よりご講演いただきます。


諸富徹 京都大学大学院地球環境学堂/経済学研究科 教授

 ご紹介いただきました京都大学の諸富です。よろしくお願いいたします。

 内田さんからも冒頭にお話しがありましたように、ウーバーの話も少し事例として出しますけれども、今日は租税回避問題に焦点を当てますが、いずれにしても、GAFAと呼ばれるIT大手、ウーバーも含めた所謂テック企業の考え方や行動規範がよく表れている問題が、租税回避ではないかと思います。ひょっとすると、今日の後半の労働問題にも通底するでしょう。背後にあるのは飽くなき利益追求の姿勢で、これはすごく顕著です。ただ、この問題が難しいのは、すべて合法で法律に違反しているわけではないということ。合法ですが、結局、公共や公益に対して、非常に大きな損害を与える経済行為には間違いありません。また、その仕組みが非常に巧妙です。特にウーバーも含めたテック企業、ITを使いこなす企業は、おそらく高額でコンサルティングファームを雇っています。アメリカをはじめ、一流大学の法学部もしくは経済、経営系で会計学を修め、公認会計士資格を持つ人たちをコンサルティングファームでは雇っています。もっと大きな企業になると、自ら直接(会計士やコンサルを)雇用し、税金をいかに安くするか、あるいは、ゼロにするかということが経営上のトッププライオリティになっています。これは驚くべきことです。日本もそんなにいい話ばかりではないかもしれませんが、日本の企業の場合は、自分たちが国家から普段、生産のために社会資本とかいろいろと利益を受けていることに対し、納税を通じて返していくというような、規範やコンプライアンス意識がある程度高い。英米系の企業の場合は株主の力が非常に強く、利益をとにかく最大化することを求められます。税金もコストの一つですから、利益の最大化のためには、税の負担というコストは小さければ小さいほどいい。国家に還元する暇があったら、株主に還元してくれというのが彼らの要求ですから、税金を払うぐらいなら株主に配当を払いたい。つまり、税負担を削った原資を配当にもっていく。そういった行動規範や考え方は、第二部のテーマの背景にあるような気がします。

 ここからは税制の話に入ります。京都大学では財政学の講義を担当しています。とりわけ専門は税金です。この問題を研究し始めて関心を持ったのが、経済のグローバル化につれて、税金がだんだんと累進性を失っていき、逆進的になっていくのはなぜだろう、と。税金を通じた所得の再分配がされなくなっていきました。大学院生か教員になった頃、竹中平蔵氏がこれからの新しい時代の税金はフラットでなければいけないと、日経新聞に書いていたのをよく覚えています。株主になったら税率が上がる累進ではなく、フラット、つまり誰でも20%なら20%という一本でいくべきだ、と。なぜなら、金持ちに対してだんだん高くなる税率はお金を稼ぐことに対するペナルティを意味してしまい、結局、経済成長を妨げることになる、と。金持ちがさらに稼ぐことを罰するような税金の体系ではだめだという主張しました。背後には経済学の理論でもそういう議論がありますが、そこは深入りしません。こういった主張は1980~90年代ぐらいに、いわゆる新自由主義が国際的に広がってきた時に、その税金版として出てきた。その背景には今からお話するような、グローバル化がもたらす税制のインパクトが非常に大きかったのです。

 具体的に図を見ていきましょう(図2-1「主要OECD諸国における最高所得税率の推移」)。OECDにおける最高所得。一番高い税率が日本でも90%超の時がありました。1980年頃は非常に高かったのですが、1980年代に下がり、ここからほぼフラットになっています。この時代、まさに新自由主義が広がった時代に税制の累進性が消え、フラット化されたということです。それを容認した1つは、海外に資産を簡単に移せるようになったことです。タックスヘイブン等に移せるようになった。

 これは北欧諸国の納税者のタックスヘイブン等を利用した課税逃れを個票データから調べた貴重な結果です(図2-2「海外資産の分布と海外での租税回避」)。パナマ文書などいろいろな形でリーク事件がありましたが、その事件から得た個人情報を北欧諸国の納税者情報、それぞれの財務省が持っている個票と突き合わせて得られたものです。P90というのは、所得の高い方から10%、P95は上から5%、P99は上から1%、P99.9は上から0.1%で、すごい超富裕層ですね。彼らが本当は払わなければいけない税金のうち、実際に払われていない税金はどれぐらいなのかを示しています。超富裕層(P99.99-P100)になると、中位推計で25%ぐらい、払わなければいけない税金を4分の1は払っていません。高位推計だと4割は払っていない。富裕層になればなるほど、税金を払わないチャンスが多いということがきれいに(グラフに)現れています。

 背景の一つには、グローバル化に対応して金融所得をはじめとする資本所得が国境を越えて逃げやすくなっていることがあります(図2-3「『二元的所得税』のイメージ」)。世界中オンラインを通じてつながっていて、ワンクリックで簡単に日本からケイマン諸島とかへ所得を移せてしまいます。仮に利子、配当、キャピタルゲイン(売却益)に税金をかけても、日本を嫌がって逃げていくため、結局イタチごっこになってしまう。やっぱり税収を失ってしまうため、(包括的所得から)労働所得と切り離して資本所得だけ分離し、一律課税をしましょうというのが、北欧ではじまった。北欧は非常にオープンなので資金が逃れやすいこともあります。なんとか労働所得だけは累進税率を維持したということです。今日もニュースにあったように今、岸田政権が資本所得の税率を今の20%から上げましょうと話しています。大変不人気で、特に金融関係者がものすごく抵抗が強い。世界からみたらとんでもない10%という税率を、ようやく民主党政権が20%に上げた。これは本則です。世界は35%ぐらいかけている。それでも、抵抗がすごく強い。

 こういう状態であるがゆえに、岸田首相の発言で有名になった「一億円の壁」(図2-4「申告納税者の所得階層所得内訳と所得納税負担率」)。日本でもよく議論されていますが、一億円を超え、所得が上がると、平均税率が下がっていくという状態です。なぜかというと、一億円を超えてくると、所得の中に占める金融所得の率が高まっていく。どれだけあっても20%しかかかりません。一方、労働所得は累進税率のため、(所得が)上がれば上がるほど税金が高くなる。金融所得の比率が高い人は、負担が下がっていくことを示しています。金融所得にしっかり課税することは、このような構造を直すことになります。完全に直すためには総合課税と言って、昔のように全ての所得を合算し、累進税率をかけなければなりませんが、せめて(金融所得の課税見直し)ですね。

 これは法人税率の推移(図2-5「各国法人税率の推移(1979-2018年)」)。各国のものをプロットしていますが、グローバル化でずっと下がってきているのがわかると思います。いわゆるタックスコンペティションで、税金の引き下げ競争が実際に働いてきた。とりわけ、特異なのはアイルランドで、現在12.5%と突出して低い。アイルランドは後でも出てきますが、アップルなどが欧州本社を置いて、税金を逃れる拠点に使っているため、アイルランドは国際的な非難の的です。今回OECDが15%の国際的なグローバル最低税率を入れたのは、はっきり言ってアイルランドを狙い撃ちにした側面が非常に強い。

 何が起きているかというと、税負担が資本から労働に移ってきているということです(図2-6「資本から労働への税負担シフト」)。資本は逃げられるので、キャピタルインカム(キャピタル収入)に対する税負担の度合いがずっと下がってきていて、逆に労働に対して上がってきています。社会保険料は事実上、労働課税ですから保険負担料を入れるとこういうことになり、逆転しています。

 これはピケティらが推計したものです(図2-7「所得階層ごとの平均税率」)。Payroll taxesは賃金税、Sales taxesはほぼ横ばい。所得税(individual income taxes)、資本課税(Capital taxes)はどんどん細っている。ものすごく労働に対して重化していながら、キャピタルインカムに対してどんどん細ってきている推移をたどってきています。

所得階層ごとの税負担の推移です(図2-8「所得階層ごとの平均税率の推移」)。トップ1%というのは1950~60年代にピークに達したあと、上下動がありますが、相対として下がってきています。(所得階層の)ボトムの50%は一貫して上昇傾向にあり、だんだん(上層に)追いついてきました。1950年代はこんなに(トップ1%とボトムで折れ線グラフの開きの)差がありました。つまり、税負担全体が逆進的になっています。

 既に話してきたように、所得税が累進性を失いつつ、税収が下がってきているということです(図2-9「税負担は所得から消費へ」)。社会保険料、事実上の労働所得課税の負担がすごく増えてきた。日本でいう消費税の付加価値税が世界的に上がり、いずれも労働所得課税、付加価値税で、逆進的な税が上がり、累進的な税が下がっているということが非常に大きい。


【租税回避のメカニズム】

 お話ししたような租税回避メカニズムは一体どうなっているのか。

 (図では)複数の事例を出していますが、やっていることは大変シンプルです(図3-1「多国籍企業の利益移転による租税回避メカニズム」)。世界の中に、日本をはじめ先進国のような比較的税金の高い国(高課税国A)と、タックスヘイブンをはじめ税金の低い国(低課税国B)があったとします。多国籍企業は両方の国に拠点を持っています。やることは単純で、こちら(低課税国B)に所得を集めましょうということです。低課税国に所得を集めれば、低い税率しかかけられませんから、多国籍企業が世界で課税される量を減らすことができます。そういう非常に単純なことをいろんなテクニックを使ってやっていく。そのために、利益を高い国から低い国に移す。日本からまとまったお金をタックスヘイブンにある子会社に送金すれば、すぐ見つかってしまい、租税回避のためでしょうと国税庁に言われて捕まります。彼らはあからさまなことは絶対にやらない。子会社と本社の正統な取引の形をとって利益を低課税国へどんどん移していくという手法をとるんですね。

 内田さんから教えていただいたニュース(「Uberは50社もの関連企業からなるネットワークを利用して世界各国で税金逃れを行っている」、Gigazine、2021年05月14日)を見ると、ウーバー社が何をやっているのかが書いてありました(スライド「Uber社の租税回避とは」)。典型的な手法です。ウーバーは世界中で利益を上げ、その利益はウーバーがオランダに設立した子会社に送られます。国の名前も登場人物もにおいがプンプンしてきますね。租税回避で必ず出てくるのがオランダです。オランダにはウーバーが設立した50社もの非公開株式会社からなるネットワークがあり、この子会社ネットワークを利用することで、58億ドルあった利益が最終的に46億ドルまで圧縮されました。とにかく利益を減らすわけです。この減らし方がどういうことなのか。ここでまた、バミューダ諸島という(租税回避に)頻繁に登場する名前があります。典型的なタックスヘイブンで、アメリカの企業がよく使う、ヨーロッパよりアメリカの島という感じですね。そして、知的財産権がでてきます。知的財産権をバミューダに置き、知的財産権をオランダ側にある子会社に売却したことで(ネットワークが)作られたと書いてあります。売却したのでバミューダ諸島の方に利益が移ります。こういう形で正統な商取引、知的財産権の売買をしたということですが、利益移転のために法外な値段の可能性があります。知的財産権の値段なんてあってないようなものです。子会社と本社の間で正統な契約書が結ばれて両者が納得していれば、おかしいとは外からは誰も言えません。でも、非常に法外な値段をつけて、バミューダに対価としてお金を移すというような手法の一つとして使われています。

 こういう風に売却利益というお金を移す手法の一つがあります。それに加えて示しているように(図3-2「タックス・ヘイブンの仕組み」)、日本企業がアメリカに販売子会社を持っていて、アメリカで商品を販売しているとしましょう。日本とアメリカの間にタックスヘイブンを噛ませ、先ほど見た知的財産をこのタックスヘイブンに置きます。ここの資産保有会社は抜け殻、シェルカンパニーなど典型的に言われている殻の企業です。知的財産がここにあって、アメリカの子会社にこの知的財産を使って商売をするための許諾を与える。この子会社は知的財産使用の特許料を(資産保有会社に)払う。特許料収入が貯まっていきます。しかし、タックスヘイブンですから、ここの収益に対して法人税率はゼロパーセントだったりします。ここに貯まったお金は、日本の本社には戻さず、貯めたまま、再投資したり、別のタックスヘイブンに移したり、お金をどんどん動かし、世界どこでも税金を払わないようにする。アメリカの子会社は利益という点ではもぬけの殻。ここで儲かったものは全部、タックスヘイブンへ移していくわけですから、ここ(アメリカの子会社)もほとんど利益はない状態になる。こういう形で、全て合法的な商取引の形をとりながら税金を納めないようにする手法は、頻繁に行われています。ウーバーもそういったスキームを使っています。


【どれほどの規模の租税回避が行われているのか】

 租税回避はどれぐらいの規模なのか(図3-3「外国企業vs.国内企業の収益性比較」)。課税前の法人の利益水準を示しています。だいたい先進国は普通、国内企業の方が(外資より)利益は大きい。ところがプエルトリコなどは、外国から来ている企業が不釣り合いなほど儲かっていて、利益の積み上がり方が異常です。ちゃんと生産活動をして利益を儲けているのではなく、租税回避を期待した何らかの資金が税金を免れてやってきているということです。それが外資由来の企業の懐に入る。プエルトリコ、アイルランド、ルクセンブルグ、スイス、シンガポール、香港、オランダ、ベルギーというふうに、お決まりの国名が並んでいます。

 アメリカの多国籍企業の課税前利益(図3-4「利益移転の増加」)。ノーヘイブンの子会社の利益はほとんどかわらないのに、タックスヘイブンの置かれた子会社の利益はどんどん上がっています。だから問題はどんどん悪化しています。とりわけ、IT革命がかつてありましたが、グローバル化に加えてデジタル化が進むにつれ、より容易になっていきますので、2000年少し前ぐらいからの急上昇はすごいです。

少し割愛します。

 どれぐらい税収を失っているかがここ(Corp.tax revenue loss/ gain(%collected))に出てきます(表3-1「移転された利益―国別推計(2015年)」)。大きい税収を損失しているのは、フランスやドイツが20%台。ハンガリー(21%)やアイスランド(22%)。18%と比較的大きいのはイギリスですね。ヨーロッパ系の国が大きな税収を失っています。アメリカは14%、日本は6%で意外に大きな損失をしていないことになっています。


【租税回避を助け、国際協調を妨げる者】

 実はこういったことを助ける人たちがいます(スライド「租税回避産業の勃興」)。「租税回避産業」と言われています。先ほど紹介しましたコンサルティングファーム―デロイト(Deloitte)、アーンスト&ヤング(Ernst & Young: EY)、KPMG、プライスウォーターハウスクーパース(Pricewaterhouse Coopers: PwC)―「ビッグフォー」と呼ばれる四大会計事務所が多国籍企業の租税回避を手伝う。これがビッグビジネスになっています。

 こういった税金問題は長年指摘されています(スライド「現状固定化の圧力と背景思想」)。国家の税収は失われ、税金の累進性を掘り崩して逆進的にならしていると問題視されていたにもかかわらず、なぜ変えるのが難しかったのか。OECDなどは90年代から警告を発し、文書も出していたのですが、全く動かなかった。ここに書いているように、現状に既得権をもつ人たちが、強いロビーイング活動を展開してきた。OECDも直近でこそ、デジタル課税やグローバル最低税率に旗を振ったのですが、実を言いますと、つい最近まで現状変革の固定化に手を貸していた。その背後にある世界観は、租税競争こそが善であり、それがなければ政府が膨張してしまう、と。つまり小さい政府がいいということですね。ノーベル経済賞を受賞した有名な経済学者のブキャナンは、「選挙を通じて選出された多数派は、資産保有者に対して過剰に課税する傾向にあり、資産保有者はまさに多数派の専制による犠牲者となる可能性がある」と言っています。日本的な文脈では「?」という感じがしますが、アメリカのリアルな現実として、資産保有者いわゆる金持ちは、民主的に当選した政府―具体的に言うと民主党政権―が税金を再びプログレッシブ(累進課税)にして、自分たちから富を奪うのではないかと恐れを抱いている。では、どうやって対抗するかという問題意識がこれです。そのためには、政府どうしを競争させればいいと。タックスコンペティションで、税金を下へ下へと引き下げていく。自動的に(税金を)上げられない仕組みを内包することになるので、有効であると。今回のOECDのような政府間カルテルをどうやって防ぐか。「税制をめぐる国際協調は政府間カルテル」と有名な租税法学者で尊敬を集めている先生(クノッセン)なんですが(言っています)。彼らが最後の砦と言っているのが、実は裁判所あるいは憲法です。過剰な課税は財産権の侵害であるとして、裁判所によってそのような動きを掣肘できる仕組みです。保守派は裁判や憲法に定められた財産保護に対してものすごく期待を抱いている。

 ようやくこれが改革されることになったのは、リーマンショックが大きかった(スライド「現状固定から改革へ」)。リーマンショックで非常に税収が失われたということですね。


【なぜ国際課税ルールの見直しが必要なのか】

 こうした動きが始まったのが、2012年頃からです。さきほど言いましたように、リーマンショックから欧州債務危機があり、やっぱり(税金を)納めなければいけないのに納めていない人たちから、ちゃんと取らなければいけないという動きが強くなりました。

 今の話を整理しますと、法人税の問題で各国の租税競争による税率引き下げ、利益移転、企業がタックスヘイブンに利益を移すことによる課税ベースの縮小。これらによって税収が小さくなってしまっているということです。これに対処しようとしたのが、今回のOECDの動きです(図4-1「グローバル化/デジタル化による税収損失への対処策」)。

 時間の関係で議論の経過は、割愛します。

 OECDが取り組もうとしたことを簡単に大きく二つにまとめます(表5-2「OECD統合提案の導入が各国の税収に与える影響(%)」)。これは二つの柱と呼ばれています(スライド「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する合意の概要(2021年10月)」)。10月のG20で最終合意が行われました。内容ですが、一つはデジタル企業対応で、デジタル課税と呼ばれています。多国籍企業の利益率が10%超に絞ります。例えば、多国籍企業の拠点が欧州にないにもかかわらず、オンラインで欧州の消費者にアクセスして、グーグルやアップルやフェイスブックのように、大儲けをしている。ところが今の国際課税ルールは、100年前の国際連盟時代に作られました。なんと今も使われています。このルールの下では、物的な拠点がその国にないと、その国の政府は企業に税金をかけられないと定めています。これでアマゾンは長らく日本に法人税を納めていませんでした。いっぱい物理的な拠点があるじゃないかと思われるかもしれません。アマゾンは倉庫を持っていますが、倉庫は物的拠点に当たらないとされていました。この話をすると長くなってしまいますが、要は、工場などのきちっとした生産活動を行っている拠点でないといけないとされた。製造業時代のルールですね。別にグーグルは、モノづくりをしていませんから、物的拠点を持たない。物的拠点がないので、いくら日本国民がグーグルやアップルにお金を払っていて、グーグルが儲けてもその利益に課税できません。彼らはどういう行動をしたかというと、先ほど説明したとおり、ヨーロッパで稼いだ利益をアイルランドへ持っていき、一旦貯めます。アイルランドは最低の税率、10%超ぐらいの法人税で済んでしまう。またさらに都合のよいことに、アメリカ企業はアイルランドからバミューダへ所得を移していく。これを完全に見逃してくれます。「タックスヘイブンに移していますね、それはダメですよ、課税しますよ」という対応が普通ですが、アイルランドはありがたいことに、そういった動きをスルーしてくれます。欧州からアイルランド、アイルランドからバミューダというのがほとんど決まった経路で、たまにオランダもかませます。こういったものにきっちり課税する。イギリスやドイツ、ヨーロッパの国々に、仮に物的拠点がなくても課税権を与えるというのがこの話です。

 第二の柱は、グローバルタックスコンペティションを止めるため、最低税率を15%に設定したことで、画期的だと思います。その意味をお話して終わりにしたいと思います。


【ネットワーク型課税権力の誕生】

 今回の動きは、非常に大きな構造変化の第一波が起きた気がしています(スライド「ネットワーク型課税権力とは」)。どういうことかというと、いままではグローバル企業にちゃんと税金をかけるのが難しかった。多国籍企業の方が経済グローバル化し、好きなところに所得を移せますが、その反面、政府は動けない。政府は自分のテリトリーを超えて追いかけられない。今回はグローバルにこうしたルールを使って課税することに初めて合意したということです。「多国籍企業課税ベースの共有化」と呼んでいます。各国がバラバラに税金をかけていたのをやめ、世界で初めて、多国籍企業の全世界利益をまず計算して、そこに課税しようと変わりました。その一旦かけた税金を、一定のルールに従って各国に配分する形で、私はトップダウン型と呼んでいますが、とにかく多国籍企業の全体利益をつかむ。各国が分断されていたので、この「つかむ」というのが難しかった。非常に大きい。二番目は、世界で初めて税率設定で共通のものを持つこと。(三番目は)そのための情報交換を国際的に行う。今日の冒頭で内田さんが言った、トランスペアレンシー、透明性という問題です。利益とは何か、多国籍企業がA国、B国、C国でかせぐ利益はどこへどう移され、どうなっているのか、全部足し合わせたら、あなたいくら稼いでいるのか――いままでわからなかったことを明るみに出させる仕組みができてきたのは非常に大きい。そういう意味ではグローバル課税権力と言ってもいいかもしれません。世界政府ができたわけではなく、依然として国家主権ですが、国家主権の下である程度グローバル課税権力と呼んでいいような、共通ルールを作ったというのが今回のG20の国際合意の意味かなと思います。

 ご清聴ありがとうございました。


<質疑>

司会 木下弁護士

 諸富先生、ありがとうございました。あと10分程度ありますが、ご質問等ありましたらお願いいたします。


川上資人弁護士

 諸富先生、すばらしいお話で大変勉強になりました。ありがとうございました。今、ウーバーイーツの配達員で作る労働組合、ウーバーイーツユニオンの支援をしています。さっきほど内田さんの話にあった、都労委不当労働行為救済申し立て事件の代理人をしています。なぜ紛争になったのかというと、労働組合ができて、会社に団体交渉を申し入れました。ウーバージャパン団体交渉をに申し入れたのに、ウーバージャパンから一切返事はかえってこなかった。代わりにオランダ・アムステルダムから手紙がわざわざ届きました。でも文は日本語です。日本語でわざわざアムステルダムから手紙がきて、そこに書いてあったことは、配達員の方が契約しているのは、アムステルダムにある、ウーバー・ポルティエ・BV社であって、ウーバージャパンとの間には契約が一切ないので、何か問題があれば、オランダに言ってください、という手紙がきて、それっきりです。ウーバーイーツがやっていることは、ウーバーと言うアプリを使って配達員たちがウーバーイーツを配達する。ここで私の質問は、利益移転という利益を移すのを具体的にどういう風にやっているのか、もしわかれば教えていただきたい。ウーバーは契約、配達員の利用契約をアムステルダムにすることで、配達員が配達した配達料の収入を一回全部アムステルダムに計上するのでしょうか。


諸富教授

 ええ、そうでしょうね。


川上弁護士

 配達員が受け取る報酬は週払いで、アイルランドの銀行から振り込まれます。


諸富教授

 うーん。なるほど。


川上弁護士

 日本には利益が一切たたずに、オランダやアイルランドに売上、利益がたって、報酬が支払われる、そういう仕組みなのでしょうか。


諸富教授

 ウーバーを調べていないので、つまびらかにはわかりませんが、お話をうかがっていると、そういうことのようですね。ウーバージャパンが一体、何の存在なのか。なんの権限もなく、雇用している方々の単なる取りまとめ、現業みたいなことしかやっていない、と。全ての意思決定はオランダかアイルランドにあるなんらかのウーバー関連会社が請け負っている、と。そこに利益を全部集めて、一旦プールした上でそこからバミューダなりに無形資産を置いて、その無形資産を利用させてもらって、無形資産を最初にどうやってもっていくかも問題ですが、とにかく置いたら、普段は特許料という名前で、どんどんアイルランドかオランダから所得を流出させているはずだと思います。特許料が妥当かどうかが問題ですが、IRSというアメリカの内国歳入庁、日本で言う国税庁が、特許料が妥当ではなく、不当に高すぎて、所得を流出させるための価格になっていると訴えたりしましたが、連敗していますね。無形資産の値段というのは唯一無二。国際課税のルールでも、物的な製品であれば、自動車なら同じような排気量やクラスで値段はどれぐらいか、というのはありますよね。比較可能性の問題から、不当にある商品を売買した結果、不当に高い値段を相手に払って事実上、所得を移転しているケースであれば、それは、世の中の常識からそのような取引価格はおかしすぎると指摘できます。無形資産はコンパラブル(比較対象取引)なものがないということで、ほとんど裁判では証拠が出せないので、負け続ける形になっています。ウーバーはやっぱり無形資産時代の申し子だなと思いますね。これまでの租税回避は物的な製品を利用したり、昔からよくあった手では借金です。例えば、アメリカから日本の本社を借金の塊にする。東京にある日本の本社がアイルランドやオランダの子会社からわざわざ借金をすると、利子を払わなければならないので、その利子を高く設定しておく。利子という形で所得を本社からアイルランドにどんどん流出させる手法もある。ところが、利子のとれる範囲はせいぜいバブルの時でも5~6%ですから、一時に大きなお金を流出できない。特許料は青天井ですので、そういう意味で非常に便利。たぶん、裁判に訴えられても、まず負けないという意味で、ウーバーはおそらく最大限この仕組みを使っているなという気がしますね。


川上弁護士

 どうもありがとうございます。短く一点だけ。あまりいい質問ではないのですが、団体交渉申入れが10月8日で、その三週間後の10月29日にウーバーがウーバーポルティエジャパンというウーバーイーツの会社を作りました。ウーバージャパンがあったのに、突然作った。時期的に怪しいのですが、なぜそうしたのかわかりません。どう思われますか。


諸富教授

 一つは訴訟の提起が影響したのか。あるいは時期的にはOECDの合意ができた時と重なっているので。


川上弁護士

 すみません、2019年の話です。


諸富教授

 19年ですか。なるほど。日本に実質的に意思決定できる機能をもつ拠点を置かなければいけないなんらかの理由ができたとしか考えられないですね。あるいは、アマゾンも本格的に税金を払わなきゃと思った時があったらしいです。それまでは国税が何を言っても知らぬ存ぜぬ。国際課税ルールはこうなっているからと逃げていたのですが、ある時期から、免れられないなとなった時にちゃんと日本の本社機能を置いて対応するようになったらしいです。子会社を設立してまともにやろうという意思の表れ、なのか、そこはちょっとわかりませんが。


司会 木下弁護士

 ほかにご質問のある方はいらっしゃいますか?では弁護士の菅俊治先生。


菅俊治弁護士

 諸富先生、ありがとうございました。今、質問した川上弁護士と似たような仕事をしています。労働委員会の中でも、なぜ(法人が)オランダにあるのか等の問題が出たり、そもそも、配達員にとってどの法人が使用者なのかも問題になったり、あるいは送達をどうするのか、さまざまな問題が起きています。タックスヘイブンは、当然向こうは否定してきましたが、タックスヘイブンや租税回避をしていることの認定は、どこかが公的に認定しうるものなのか、社会的に非難して、いや違うと、議論の応酬で終わってしまうのか。どこかで誰かが権威をもって租税回避をしていると判定する場所などがあるのでしょうか。基本的なところがわかっていないのですが。


諸富教授

 わかりました。非常に広くとれば、(ウーバーの)本社はアメリカですから、アメリカの通常の法人税率で払うべき税負担よりも、グローバルに低い税しか負担していなければ、それはなんらかの租税回避をしていると認定できるわけですね。もちろんグローバルな子会社を持っていますから、各国ごとの法律があり、税率も違います。現地の税率で、低い税率であれば、その税率でちゃんと払っていれば、租税回避と言わないと言えばそれまでですけども。ただ、そこにタックスヘイブンも含まれていたりすると、現地の税率がゼロだから、私たちは払わないと言ったとすると、我々はそれを租税回避と呼んでいるということになります。冒頭にも言いましたように難しいのは、違法ではないので、租税回避は脱税とはちがう。あくまでもアヴォイダンス(avoidance)。避けているだけで、法を犯しているわけではない。法を守りながら、いろいろな工夫によって税金を払うのを安くしているという行為ですから。誰かが宣告したり、判定したりする問題かと言われると、脱税は確かに法を破って税金を納めていないわけですから、誰かが認定して犯罪行為だとなります。租税回避は、認定と言えば認定で、本来払うべきアメリカの法人税率でかける利益で払うはずの金額からすると、これだけしか払っていないよね、という言い方はもちろんできます。それはジャーナリスト、政府機関、研究者が調査をして、この企業がこれだけしか払っていないというのはもうGAFAに関してはいろいろ言われています。そういうのを租税回避と呼んでいますけれども、仮にそれを租税回避と認めたとしても、合法的だと必ず付け加えます。我々は何も悪いことはしていないと。ここは押し合い圧し合い。犯罪でもないので、国際的な非難はできても、ルールがそうだからとなっているのが実情です。


菅弁護士

 ありがとうございます。租税回避と言った場合、ウーバーにしてもアマゾンにしても、現地で汗水たらして働いている人の社会保険料を誰も負担していないという問題も非常に深刻に受け止めています。租税回避とは違う問題に括られるのでしょうか。国際的にはそれも含めて租税回避と言われるのでしょうか。


諸富教授

 租税回避とは一般には言っていないですね。社会保険料を負担していないのは租税回避ではこないですね。けれども、そういう法制のない国を選んでいっているということがあったりすると、租税回避とは呼びませんが、やっていることは同じですね。社会保険料をギグワーカーの人たちにも強制する、企業に対して払うべきものをきちんと払えと強制する法制があると儲からないなとそこは免れるようになんらかの工夫をしているのであれば、行為としては極めて租税回避に近いことをしていることになります。


菅弁護士

 ありがとうございます。


司会 木下弁護士

 ありがとうございます。諸富先生、質問は終わりにします。川上弁護士が言ったように、オランダに会社があるということからすると、ウーバーイーツの契約関係はオランダにあることになり、本当ならば、労使関係が日本の会社とあるのかなと思っていたら、蓋を開けたら違った。租税回避の会社の動きが、労働契約関係にも歪みをもたらしているのかなという印象を受けました。そういう意味でも、労働者としてもこの問題に着目し続けなければいけないのかなと思いました。先生、お忙しい中ありがとうございました。


講演資料「グローバル企業の租税回避問題とその対策」
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